その5 『ソナチネに撃たれた日』
とある朝、ふと、新聞を見た。
北野武監督映画。三本立て。新宿。の記事。
『HANA‐BI』が海外で受賞した頃の話。
小学生のころ、『その男、凶暴につき』を観て、怖かった印象のある北野映画。
なんとなく、観に行きたくなった。
新宿ならちょうどいい。一本目、『ソナチネ』というやつだけ観て、午後の授業に出よう。時間もぴったりだ。
映画もそこそこ観るようになっていて、ハリウッド物はどれも似たり寄ったりなんだな、Vシネマって面白いな、ヨーロッパにもすごいのがあるんだな、とワクワクしながら新しいものを探していたときだった。
冒頭から釘付けになった。
それは今までに観たことがないものだった。
最後の銃撃のシーン。
美しくて、そっけなくて、悲しくて、痛くて。
銃声のたびにシートに自分が打ちつけられているように感じた。
その演出のかっこよさにやられた。
シートから、動けなかった。
『3-4X10月』『その男、凶暴につき』
ソナチネからの三本立て。
瞳孔開きっぱなしだった。
映画館を出たあと、空はまだ明るかった。
これを観るために俺の今日はあったんだ、と、ごく素直に、思った。
新しく始める瞬間の号砲として、それまでの自分が死ぬ一撃として、『ソナチネ』があったこと。
映画に撃たれた、初めての経験の話。