『魔界に棲むもの。その絶世の美貌』
今週のお題「ふつうに良かった映画」
『あちら側』の世界を描く作家として一世を風靡し、今ある『異世界もの作品』の基盤を作り上げた一人、菊地秀行。
“ 活字でしかできない世界を ”
その志にふさわしく、確かに、その作品群は、
『映像化なんて、無理!』だ。
活字であるからこそ生きる、『魔』『闇』『妖』。
『カタチ』を『眼に見えるように』表現してしまっては、その魅力が半減、というか、なくなってしまう。
『異界』は『イメージ』の中にあるからこそ、畏怖、恐怖を感じさせるのだ。
そして、菊地秀行作品といえば、『想像を絶する』ほどの、『美』である。
それを、どう、『映像』で表現しろというのか!
無理難題である。
一枚の絵で想像を喚起するような優れた絵師でなければ、菊地秀行世界の
『魔』『闇』『妖』『美』
に拮抗し得ない。
それでも果敢に挑戦した作品はあった。どれも嫌いではない。
『けっこういい』『でも、やっぱり、ちょっと、違うよなあ』
である。
(個人的にはアニメ映画『魔界都市新宿』のメフィストは雰囲気が出ていて好きだ。でもやっぱり末弥さんの絵が“ メフィスト ”だ。映画は“ 声 ”も重要だから、辛口な評になってしまうのは仕方がないだろう)
しかし。
唯一。
菊地秀行原作にして、菊地秀行の『魔』『闇』『妖』、そして『美』の表現に成功し、原作とはまた違った味わいを持つ、ひとつの『映画』となった作品がある。
『妖獣都市』
である。
主人公は、普段は一介のサラリーマンにして、『闇ガード』の裏の顔を持つ男である。
『闇ガード』とは、何か。
密かに『あちら側』『魔界』と抗争が繰り広げられている世界で、人間の側に立ち、魔界のものと戦うエキスパートである。
『こちら』と『あちら』は、共存のための『協定』を結んでいる。
だが、魔界のもの、悪鬼、妖魅の類はその性ゆえ、唯々諾々とルールに従うはずもない。
その影の戦場で、命を賭け、魂を賭け、人ならぬものたちと、人ならぬ戦いを続ける『闇ガード』、滝蓮三郎。
そこへ、500年に渡る『和平協定』の『調印式』の話が舞いこむ。
『あちら』と『こちら』をつなぐ架け橋となる魔道士を守るため、滝が選ばれる。
『あちら側』の過激派も黙ってはいない。全力で阻止にかかる。
しかし、『あちら側』にも『良識派』、人間との共存を望むものたちもいる。
そして派遣された、滝の相棒となる、『あちら側』の『美女』、
麻紀絵。
そう、この『妖獣都市』
麻紀絵の魅力が、素晴らしいのである。
『魔界』の『女』をどう描くか。
“ この世のものではない ” “ 美 ”である。
それが、成立している。
黒いスーツをタイトに着こなした、男装の麗人。
怜悧な美貌。
その眼!
そのアクション!
人間味を宿しながらも、確かに『魔界の女』と感じさせる存在感が、もう、素晴らしい。
後半、ネタバレにならないよう語るのは難しいのだが(粋などんでん返し。僕はそのケレンが好きだ。そこが好みの分かれるところだろう)、
クールで、血もきっと青いんだろうな、と思わせる麻紀絵が、変貌する。
黒から白への対比も美しい。
同じ眼なのに、違う。
その表現にも、唸る。
ふつうによい映画、『妖獣都市』
アクションひとつとっても、今のアニメに引けをとるどころか……のかっこよさである。
麻紀絵の声も『魔界の女』とすんなり受け入れてしまう魅力にあふれている。
『魔界の者』、あの蜘蛛女の不気味さだけでも見る価値あり。
魔道士、ジュゼッペ・マイヤートというキャラクターも素敵だ。菊地秀行作品の『笑い』の部分もしっかりと消化している。
おすすめ所満載の映画。
『妖獣都市』
(あ、いま気づいたけど、OVAか。でも、『映画』と名乗って問題なし!ということで)
ふつうに、アニメで、バケモノとか異世界とか超常能力とか表現したものが観たいというのなら。
やっぱり、観ておかないと!
原作はこちら。
徳間文庫版の、ひろき真冬さんのカバーを載せられないのが残念!
スタイリッシュ!クール!鮮やか!な表紙は、ポスターで欲しくなるほど、かっこいい絵なのだ。
- 作者: 菊地秀行
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