『時代は “ 終くん ” を求めているのではないか。 “ 創竜伝と天野喜孝 ” 』
『アルスラーン戦記』について書いたのならば、やはり、
田中芳樹×天野喜孝コンビのもうひとつの傑作についても、書かねばなるまい。
『創竜伝』である。
文庫版もお手ごろで、その愛らしいイラストもよいとは思うのだが、彼ら4兄弟は、竜に変身するのである。
絵師、天野喜孝の『異界現出』の画力でもって描かれる4人の姿が、やはり彼らには似つかわしいと思うのだが、まあ、単なる好みの問題かもしれない。
中身は変わらないし。
ま、いいか。
とは、しかし、言えんのではないだろうか。
『創竜伝』は漫画ではない。
活字の物語だ。
しかし、そこに絵があることで、脳内ではその視覚情報をもとに物語が繰り広げられることになる。
天野喜孝の竜堂4兄弟をイメージして読むのと、文庫版のライトな絵柄を想起して読むのとでは、感触が違う。
どこか茫漠とした、幽冥の境をさまようような、天野喜孝の描く竜堂4兄弟は、ぴったりだと思う。
あのヴィジュアルで、あの4人の人物の魅力、掛け合いである。
そのギャップがまた楽しい。
ご存知ない方に、簡単に説明しておこう。
彼らは、始、続、終、余、の名を持つ4人兄弟である。
彼らは、竜種と呼ばれる、特別な血を持つ一族である。
彼らは、自分たちが常人とは違う、特別な力を持つ存在であるということは知っていた。しかし、それが、まさか『竜』だとは、『竜に変身』までするとは想像もしていなかった。
彼らの血、“ 力 ”を手にしようと魔の手が迫る…
ところから、物語は始まる。
父母のいない兄弟たちをまとめる、しっかり者の『長兄』、始。
怜悧な美貌と毒舌の『次兄』、続。
やんちゃな食いしん坊『三男』、終。
感受性強く、兄たちを頼りにしている、最強の『末弟』、余。
彼らは、とにかく、仲がよい。互いを信頼している。絆がある。
『創竜伝』が面白いのは、
現実と地続きの、中国古典異世界ファンタジーな冒険が心躍らせてくれるから。
だって、竜になっちゃうんだよ!?
なのは勿論なのだが、
何より、彼ら4兄弟のファミリー感が、そのやり取りが、くすっと笑えて、心温まるからである。
巻末、4人のやりとりがあとがき代わりになっていたが、新刊が出るたび、そこを読むのが楽しみだったのは、おそらく読者のほとんどではないだろうか。
だからこそ、あのライトな感覚で、文庫はCLAMPが手がけることとなったのだろうが
(そして新しい読者も獲得した、喜ばしいことだと思うのだが)、
やはり、そのベースは天野喜孝の絵にあると思う。
ここではないどこか。
天野喜孝の絵は、現実には存在し得ない。
それなのに、なぜか、懐かしい。
知っている。
それなのに、遠い。どこか、遠い、遠い、どこか。
これはただの戯言で、ただの思いつきなのだが、
タイトルの『時代は “ 終くん” を求めているのではないか』
しかし、あながち外れていないようにも感じる。
兄たちを敬い、『最強の弟』を守ろうとする心意気を持ち、
よく食べ、よく眠り、どんな状況にも『あらよっ』とばかりに突っこんでいく。
好奇心旺盛で、快活で、『悩む』ことなく、解決に体を張る。
ただの好みじゃないか。
と言われたら、まあ、その通りかもしれない。
『じゃあ、4兄弟の中で誰が一番好きですか?』
『やっぱり、始兄さん!頼れるし!』
『いや、続兄さんでしょう! かっこよすぎる!』
『えー。余くんだなー。かわいいよねー!』
きっと、各々ご意見あるだろう。ついつい主張したくなるだろう。
そんな魅力にあふれた『創竜伝』
いったい新刊が出るのはいつなんだ!?
頼むから完結してくれ。続きを読ませてくれ。
の『創竜伝』
いつ終わるのかも、ちゃんと終わるのかも、まったく不明。
それでも、あの4兄弟と出会う。
それだけで、もう充分。