『本日の “ 閃光少女 ” 』
急いでいた。
乗り遅れてはならん、と電車に駆けこんだ。
おまけに、早く返信しなければならないメールもあった。
携帯片手にメールを打ちながら乗車した。
「ーーーーーちゃん、-----ちゃん!」
少女の声が片隅で聞こえた。
その電車では、よくある光景。
私立の、制服を着た小学生たちが何やらわいわい。
うるさい、というほどではない。
人に迷惑をかけてはいけません。と躾が行き届いているであろうと推測される範囲での、わいわい。
だから、いつものことだろう、と、聞き流したのだが、
「-------ちゃん!」
声に切迫したものが混じった。
電車の扉が閉まろうかという時である。
顔をあげると、“1年生”らしい雰囲気をまとった少女は、バッグを2つ手に持って、友達の名を呼び続けていた。
『バッグ忘れてるよ…!!!』
と伝えたいらしかった。
友達は下車。彼女の降りるところはまだ先。
大人であれば、そのまま降りて追いかけるとか、メールして次の駅で待つとか、いろいろ方策は思いつくし、『うっかり荷物を置いてきてしまった』ことにそんなに慌てない。友達が持っててくれるし。
でも、彼女はまだこどもで、それは、なかなかの一大事だったのだ。
(今、降りたばかりなのだから、制服も同じだろうし、その娘はすぐ見つかるだろう。行ってやろうか)
と思い、(でも、ちょっと俺いま急いでるんだよな…)
とためらった、その一瞬のことであった。
「これ、渡せばいいの?」
ぱっと現れて、その子からバッグを受け取った少女がいた。
制服姿の高校生だった。
うなずく1年生と、受け取って、さっと身をひるがえす女子高生。
この間、3秒。
ドアが閉まった。
うわ、あの娘カッコいい…!
と、いいものを見たような気持ちになったが、その一瞬、(俺、遅れるからどうしよう)と考えた自分がちょっとかっこ悪く思えた。ちょっと、負けた気分であった。
しかし、何はともあれ、本日の “ 閃光少女 ” は彼女で決まりである。
ああいう、ふつうにカッコいい女の子に捧げたい名曲である。
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