『内なる獣に名前を与える " キマイラ " シリーズ / 夢枕獏 』
幻の獣を飼う。どこに? 己の肉体に。
制御不能な『荒ぶる獣』を身に宿した少年の数奇な物語、
『キマイラ』
物語が始まった、そのときは、幻獣を内に飼う少年の『変身』ものであった。
哀切な、情念燃え滾る人狼の物語と、宮沢賢治の“蒼黒いけだもの”の詩情が衝突し、スパークして生み出された物語は、しかし、
いったいこの物語はどこへゆくのか、いったいこれは何の話なのか、
作者すらわからぬ、数奇な運命を巡る物語として紡がれ続け、未完のまま、今に至っている。
わかっていることは、ただひとつ、
確かにこの物語はどこかに存在している。
とある夜、桜の樹の下に佇む、不思議なものを『確かにそこにいたんだ』と確信してしまうような、朧な、幽玄な、不思議なリアリティを放っている。
おそらく、映像化は不可能であろう。
『動く』天野喜孝の絵が不可能であるように。
『幽霊』を光のもとに『写実的』に描くことが間違いであるように。
狂おしく、この上なく美しく、
変貌する獣。
『異形の美』を描いた日本代表超傑作。
となるに違いないのだが、如何せん、未完である。
完結を待とう。
(完結しなくてもいいから、久鬼を、龍王院弘を、フリードリッヒ・ボックを九十九三蔵を、菊地を、その先の活躍を邂逅を見せてはくれないだろうか…)
しかし、『異形』のもの、『異界』を描いた作品の『表紙』として、天野喜孝の絵は、なんとふさわしいことか。
あんな獣だったら、飼ってもいいと思う。