『黒で埋め尽くす。こころも、魂も、すべて黒で埋め尽くす / " ベルセルク "』
いっそのこと、狂ってしまえば、楽になれるのに。
抗うから、苦しい。
生きようとするから、苦しい。
もういいよ。
これまで、やるだけのことはやった。精一杯やった。
だれも責める者はいない。
眠りに落ちるように、抗うことをやめ、眼を閉じてしまえば、もう楽になれるのに。
世界はもはや手遅れだ。
大海を堰き止めていた門は開いた。
溢れ出す、巨大な龍のような奔流に、ひとりの人間が、
倒れまいと踏ん張ることなど不可能であろうし、
流れに呑みこまれ、渦に巻かれたところで、世界は何も変わらない。
事実、人々は巻かれ流されてゆく。
新しい世界が始まろうとしているのだ。
しかし、彼は立つ。立ち続ける。
異形の力に魂を蝕まれることさえ引き受け、立ち続ける。
背後の大切なものを守り通すために、立ち続ける。
世界が変わったあと、王として君臨する男を討つ者は、
己しかいないと、立ち続ける。
それは、不可能事だというのに。
" 道理 " を捻じ曲げることなど、誰にもできない。
運命も宿命も、何もかもが無理と言っているのだ。
もう、手遅れなのだ。すべてが。
それでも、彼は抗い続ける。
人の身で不可能だというのなら、人でないものにさえ堕ちて。
護り続けようと、救おうと、討つべきものを討ち果たそうと、抗い続ける。
驚異の物語である。
連載が止まるのも無理はない。
人の身でありながら、魔物と対峙するため、己の暗黒と向き合い続ける男を描いているのだ。
人が、神や魔物に挑む物語を描いているのだ。
緻密に、丹念に。
幾多の絶望を引き受け、それでも尚、戦うことを選ぶ、狂戦士の物語、
『ベルセルク』
連載の再開を、気長に気長に待っている。
……にしても、映画の音楽ときたら。