『白で救う。魔、従えて、眩い光で世界を救う / "ベルセルク"』
前回に引き続き、『ベルセルク』の話である。
『黒で埋め尽くす。こころも、魂も、すべて黒で埋め尽くす』 - SOUL EAT!!!
セオリー通りの西洋型ファンタジーであれば、主人公はグリフィスであり、
ガッツは、騎士が王になる物語の途上、現れる"黒い傭兵の巻"のワンエピソードに登場する、魅力的な脇役でしかなかったろう。
そもそも、"ベルセルク"、"バーサーカー"とは西洋の魔物の辞典にも数行程度の注釈があるくらいのもので、主人公に据えるような器があるわけではない。
狂った戦士を主人公に、"どんな物語が描けるか?"と、それはもう、血まみれの憎悪撒き散らすか、絶望か、救済か、それくらいか。
あるいは、対極の"純粋"を少女に託して"希望"に反転してみせるとか、
狂気を善に変えるため、仲間と出会って、その力を善きことのために使うとか、
小品として面白そうなネタではあるが、大河のドラマとして成立させるには、役不足のキャラクター属性であると言える。
それが、ファンタジー作品の未曾有の傑作として、大河の名にふさわしい物語として、
存在しているということに、唸らずにはいられない。
今更ではあるが、今一度、唸っておきたい。
セオリー通りの西洋型ファンタジー作品であれば、主人公であった、グリフィス。
生まれながらにして、高貴。眩い光を放つカリスマ。
慈しみのこころを持って、楽園世界を築くため、自ら陣頭に立ち、人々を鼓舞し、守り、率いていく騎士。
彼が王となるのは必然だった。
彼自身の素質、時代が求める英雄像、泥水をも呑む覚悟、そして彼には、信頼し合える仲間もいたのだ。
剣一本、己の力のみを頼りに、誰も信頼することなく、血まみれの獣のような生活を送ってきた黒い傭兵もまた、自らの居場所を見出し、愛する者も、信頼できるはじめての仲間も、親友と呼べるような男も、手に入れたのだ。
そして、光の王が誕生する。
新しい時代がやってくる。
と、壮大にして、絢爛な、人々の歓びと慈しみの心が基調とされる黄金時代がやってくる、そんな時代をこの手で引き寄せる、その悲願、もう間もなく。
というところで、パズルのピース、
その最後のピースを置き間違えただけのような些事が、世界を壊す。
すべてが"最悪"へと雪崩をうって、転がり落ちてゆく。
真の物語はそこから始まる。
なんと壮大なプロローグ。
魔と契り、堕ちることなく、さらなる光の高みへと"純粋な白"を手に入れたグリフィス。
民の目線を捨て、神の視点から、世界改革の覇業へ向かう現人神となったグリフィス。
" 良心の呵責 " など微塵も感じることのない、天魔の存在となったグリフィスに、
虫けらのような黒い戦士が、挑む。
眩い光で世界を粛清、浄化、新たな黄金期を生み出そうとする神に、
情念の焔燃やし、黒い戦士が、挑み続ける。
善と悪。
光と闇。
円を2つに流れるように裂くS字。
白の中に黒があり、黒の中に白がある。
善と悪。光と闇。
対立する2項ではなく、
円を描くように、ともにある、
あの東洋的図像のような白と黒を思わせる『ベルセルク』
それが、中世と魔術のヨーロッパ的世界観で描かれているということの、稀有。未曾有。
主人公になりうることもなかったはずの "狂戦士" が、
神や魔と抗し得る一縷の希望、と主役を張る『ベルセルク』
連載の再開を、気長に気長に待つとしよう。
一気読み!『ベルセルク』スペシャル編集版 第1集 ?黄金時代編? 363ページ
- 作者: 三浦建太郎
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