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ぐるぐる回る 風の時代がやってくる

『紅蓮に身を染めてまで、守るべきものがあるというのか  / " ベルセルク " 』

 

前回に引き続き、『ベルセルク』の話である。

 

壮大なプロローグであった、" 白と黒 " 司る2人の友情を描いたあの時代が、好きである。

 

一気読み!『ベルセルク』スペシャル編集版 第1集 ?黄金時代編? 363ページ

 

彼はそれまで、たったひとりであり、誰を信じることもなく、ただ己の力のみを頼りに生きてきたのである。

 

それが、生きる目的を得た。

 

己の居場所を見つけることができた。

 

親友と、仲間と、恋人と、

" そんなものはこの先手に入ることはないし、そんな夢を見ている暇などない "

と野良犬のような眼をして生きてきた男が得た、束の間の、幸福のとき。

 

それが、まさか……

 

と、物語は、絶望と悲嘆と憤怒に彩られた、未曾有のハイパーファンタジーとして真の幕を明けるのだが、その後、なぜ彼が戦うことを選んだのか?と、それは、その夢のような時代が本物であったがゆえである。

 

 

あの頃はよかった。

青春時代ってそんなもの。

 

年を経て、まぶしい眼をして思い出す、あの頃。

今は今の生活があり、『あの頃はよかったね』あるいは『こどもだったね』と思い出す。

いろいろあったけど、もう済んだことだし、許せなかったことも今ではもう笑い話。

どうして、あのとき、あんなに悩んでいたんだろう?

 

そうして過去は風化し美化され改ざんされ、忘れ去られてゆく。

自分のあやまちも失敗も、たいしたことではなかったと許せる。

誰かのあやまちも失敗も、たいしたことではなかったと許せる。

 

 

だが、彼は、許さない。許せない。

 

 

あの時が、

本当に、

素晴らしい時間だったから。

生涯忘れることのない、

黄金の日々、

夢のような現実、

心の底で、真底、

望んでいた祝福の時だったから。

 

だから、彼は、許せない。

楽園を踏みにじり、穢した者を、許すわけにはいかない。

 

 

彼の心の中には、血の涙流し、非力であろうと剣を取り、【敵】に立ち向かおうとする少年がいる。

 

しかし、現実は厳しい。重い。

 

少年の純粋さだけでは、勝つことはおろか太刀打ちできるかも怪しく、抱える物は重過ぎる。

 

許せない想いをぶつけようにも、蟻の一噛みが象に与える痛みなど、タカが知れているのだ。

 

 

あの頃はよかった。

でも、今は今の生活があって、時代がこんなんだから、まあ、それはそれ。しょうがないよ。

 

 

否。否。否。

 

 

彼は認めようとはせず、

 

奴を許さない、

こいつを救う。

 

と、大人にならずにいる。

少年の怒り抱えたまま、【父】である責任さえ引き受け、死地へ赴く。

 

 

今更、強調するまでもないが、『ベルセルク』の主人公はガッツである。

 

胸に " 白 " 抱き、護るためなら、と傷も痛みも厭わぬ覚悟を決めた男の苦難の旅路が本筋である。

 

今更、強調するまでもないが、凄まじい物語である。

 

紅蓮に身を染めてまで、何を守ろうというのか。

焔の核には、あの黄金時代がある。

映画ベルセルク ART BOOK キャラクター編