『楽園を創造する者』
彼女の髪は赤くて、みんなと、違う。
仲間はずれにされるのがいやだから、作り笑いをして、話を合わせる。
私なんか取るに足らない存在。
彼女はそう思っている。
どこか違う世界へ。
そう願うことすら、この世界では、もう笑いの種。
だから、誰かを求めたりすることは恥ずかしいことで、心の奥底で願っていてもけっして口には出さない。
本当の気持ちを伝えることなんて、怖くてできない。
その世界に白馬の王子は現れない。
" あちら " の世界は存在するが、信じられないような奇跡や怪異や生き物は存在するが、" ありのままの自分 " を許容し、理解し、世界にたったひとつの宝物として扱ってくれるような甘さはこれっぽっちもない。
本当の自分の居場所なんてない。
ただ存在するだけで価値があるなんて、夢の世界にすら、ない。
見知らぬ異世界。新しい名前。特別な存在。
ここではないどこかへ。
誰か本当の私を理解してくれる人が。もしかしたら。
だが、彼女は、真に選ばれし者だった。王だった。
しかし、そこは、楽園ではなかった。
彼女は赤い髪をしていて、みんなと違う。
本当の居場所は、やっぱりそこにはなくて、本当の自分、本当の名前を知る人々のいる世界があって、彼女はそこで己を見出す。
でも、そこは楽園じゃない。
彼女はそこを楽園にするために生まれた、選ばれし者。
過酷な天の世界で、彼女が王たらんと自らを受け入れる『月の影、影の海』
旅立ちの時に。