『その夢は切なすぎる』
恋をした。
結ばれた。
満ち満ち、あふれ出す喜び。
弾む心。
美しさばかり映すようになる瞳。
「愛している」
「愛されている」
完璧な世界。
恋をした。
ずっと一緒にいたいと思った。
ぬくもりを、匂いを、身体を、すべて丸ごと抱きしめて離さず、もう、ずっとこのまま。
ずっと一緒にいたいと思った。
愛する者を見出した喜び。幸せ。
守りたいと思う気持ち。
守られているという安心。
強さも弱さもひっくるめて、受け入れる。
強さも弱さも、どうしようもない癖も、愛おしく、抱きしめる。
時折の喧嘩や仲違い。
ごめんと謝ってみたり、謝られてみたり。
距離を置いたり、近づいてみたり。
「やっぱり一緒にいたかった」
「やっぱり一緒が一番幸せ」
距離を置いた分だけ、増す幸福感。
再確認。絆はより強く、堅く。
やがて来る反転。変質。
「どうして?」
「なんで…!?」
苦しみ、痛み、悲しみ、憎悪。
何故、何故、何故……
それは、" 彼女の夢 " というより、誰かを深く愛した人々、
これまでの、これからの、すべての " 誰かを深く愛し傷ついた人々の夢 "
切なすぎる悪夢。
映画の終わりは、ひとつの夢が終わる時。
「奇妙な夢を見た」
目覚めて見回す現実世界。
「あれ、どんな夢だったっけ?」
思い出そうにも、断片、切れ端、おぼろに霞み消えてゆく幻影を掴むに似て。
その夢は、とても奇妙なカタチをした鍵。
「もう思い出したくはない」
と、海の底の底に沈めた、自分だけが知る秘密の小箱の封印を解いてしまう鍵。
暴かれる世界。
真実は、胸かきむしられる、切なさに溢れている。
狂い、叫び出しそうな悲しみに満ち溢れている。
それでも、
「愛した」
その想いの強さ、美しさに、心は呼応する。
「変な夢を見たな……」
起きてしばらくは妙な感覚に包まれているが、しばらくたつと、そんな夢を見たことも忘れてしまう。
しかし、どういうわけか、気分がよい。
次の曲がり角、出会う誰かの気配。
新しく何かが始まる気配。
その夢は、ひとつ、過去を終わらせる。
見つめ、認め、葬り、成仏。
儀式とも浄化とも作用する、魔術のような
" マルホランド・ドライブ "
切なすぎる夢に救われる。