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SOUL EAT!!!

歓び跳ねる、踊り狂う、炸裂する虹、そのかけらを一灯

『インヘルノとよびし地獄、現れたり』

 

夜に咲く、幻の花。
 
艶やかに、絢爛と、魔性の香り放ち、
夜に咲く花。
 
咲き誇ることもなく、人知れず。
あるいは、たったひとりの為だけに。
 
執念と情念と覚悟と業。
逃れることのできぬ因果。
 
豊穣なる闇を呼吸し、咲いて、散る。
 
同じ花はふたつとない。
 
 
そんな小説。
 
 
「日本」でしか描くことはできず、
「日本語」でしか表現し得ない、狂おしく、美しい「 魔 」 の作品群。
 
赤江瀑作品の中でも、夏に読むなら、『オイディプスの刃』オイディプスの刃 (角川文庫 緑 376-3)

16歳の駿介が、夏、耳にしたひとつの言葉。

愛刀家の父が持つ「次吉」の手入れに1年に1度現れる、若い刀研師・泰邦。

彼の言葉を聞いた、最後の時。

 

“ 彼は、少し苦しいと言い、苦しいことはおれは好きだ、と言った。 ”

 

香りを愛し、香りにも愛されていたであろう、美しい母と泰邦。

秘められた恋。

 

泰邦であれば。許せる。

 

そんな風に思っていた。

 

それなのに。

 

そのとき、泰邦は、いてはならない場所にいた。

ともにいるべきでない者といた。

あってはならない行為の最中にあった。

 

少し苦しい、と言い、そして、そのあとは何と言っていたか。

 

確かめる術はなくなった。

 

翌日の午後、泰邦は「次吉」で死んだ。

 

そして、母は、泰邦の死を知り、「次吉」を胸に突き立て、命を絶った。

 

そして、2人の死を知った父もまた「次吉」で腹を割いて果てた。

 

痴情沙汰として世間的には決着を見た惨劇は、残された3兄弟の人生を大きく変えた。

狂わせた。

 

10年のときを経て、再び出会う兄弟たち。

 

「次吉」だけが知る真実。

 

“ 彼は少し苦しいと言い、”

そして、何と言っていた?

 

すべての真相を知り、「次吉」によってすべてを終わらせる駿介。

 

“ 信じていてよかった ”

 

夏の日の午後に起きた不可解な惨劇は、冬の雪景色の中、清冽に、安らかに、真の終わりを迎える。

  

 

 

赤江瀑作品は、恋の物語であると思う。

 

倦怠と憎悪と失望に変わる、生活感に根ざした恋ではなく、

生涯に1度の恋。

哀しく、狂おしい、ただ1度の恋。

どうしようもなく引き合い、果ては煉獄と知りつつも進まずにはいられない、理性の箍を捨てた恋。

ロマンチックに胸をときめかせるだけでは終わることができず、裡なる魔や闇を目覚めさせてしまう、文字通りすべてを賭けた恋。

 

ゆえに、異形の花が咲く。

この世ならぬ、美しい花が咲く。

 

 

 

比較的、こっちのほうが入手しやすいかと。

↑角川文庫版の装丁は横尾忠則。クール。 

オイディプスの刃 (ハルキ文庫)

オイディプスの刃 (ハルキ文庫)