『ミッシェル・ガン・エレファントという奇跡について語る その18 つまり今ここが神のジャズ " ロデオ・タンデム・ビート・スペクター " 』
荒涼と死の気配。
暴かれた世界。
そこは完全にあちら側の世界ではなく、あちらもこちらも、見えるものも見えないものも、交じり合い、混ざり合った世界。
見知ったものが、まったく別の意味を持つ。あるいは真の姿を現す。
あちらもこちらも混じり合う、それは奇妙な夜の世界。
そこで何をするのかというと、ロックンロールを鳴らす。踊る。
そこで鳴らされる音は無論、今までとは違う。同じのようで、違う。
あちらもこちらも混じり合う、新しい音。
そんな感触、" ロデオ・タンデム・ビート・スペクター "
85人の映画スターを、流れるライトに、赤いライトに、名前をつけてゆく、
幾多の夜を超え、朝を超え、
世界に別れを告げ、別れを告げ、
" シトロエンの孤独 " は続く。
1曲目から、そこが今までとは違う場所であることを。
そこで何を鳴らすのかと、
“ ここは きっと宇宙のど真ん中さ ” と。" ゴッド・ジャズ・タイム " と。
“ 宇宙はどこにもありはしないぜ ” と。( " ターキー " )
揺るぎない確信が放たれる。
" ブレーキはずれた俺の心臓 "、 " マーガレット "、 " バード・ランド・シンディ "
と、そこがどこだろうが、踊れ踊れとハイテンションなナンバーが続き、
インストの " ビート・スペクター・ガルシア " へ。
知ったこっちゃねえよ、そこがどこだろうが踊るんだ、と。ふと。
ふと、我に返る。
踊り疲れて、立ち止まる。
そこで気付く。再び気付く。
否応無く、気付かされる。
不穏。
気配。
音もなく忍び寄るもの。
そこにいるもの。
7曲目 " ビート・スペクター・ブキャナン "
12曲目 " ビート・スペクター・ガルシア "
2人の亡霊。その気配。
命をその場で使い切るようなテンションと、2人の亡霊と。
そこで幕を閉じたとしても傑作であったろう " ロデオ・タンデム・ビート・スペクター "
しかし。
またしても。
ラスト。
最後に、13曲目 " 赤毛のケリー " がやって来る。
凍てついた風。
なびく髪。
悲しい、強い、眼をした、赤い髪のケリー。
知ってしまったがゆえにもう戻ることのできない、
知らなかった頃にはもう戻れない、
ケリーの長い髪が風に揺れている。
運命と意思とが渾然と。