『死神と対話する』
ベルイマン監督の " 第七の封印 "
小難しい、抽象的な映画なのかなー。
と思っていたら、全然、違った。
普遍のテーマを、むしろわかりやすく、生き生きと描いた、素晴らしい映画だった。
どうして、" いい映画 " ってのは、その一場面、ワンカットだけでも、「美しいなあ…」と感じるのだろう?
冒頭の海のシーン。
現れる死神。
なんだか、それだけで、
「ああ…いいなあ…」
引き込まれてしまった。
舞台はヨーロッパ。十字軍の時代。
" 果たして神は存在するのか "
疑念に囚われた騎士が主人公の物語ではあるけれど、描かれた核は " 生の価値 " 、普遍的な " 人間 " の様々な姿。
時代は変われど、場所は違えど、変わらぬ人の振る舞い、思考。
そして、時代が変われど、国がどこだろうと、人間である限り、けっして逃れることのできぬ、死。
全知全能の神などいない。
迫る死からは誰も逃れることができない。
流行る疫病。
大義振りかざし、神の名のもとに犠牲を強いる偽者たち。
悪魔弾劾、犯人探しの暗い熱狂。踊らされる人々。
ずっと昔の、異国のファンタジー。
ではない。
今と変わらない、人間の心性。
力持たぬ人々は何をする?
神などいない、理不尽極まりない世界で、どう生きる?
正解かどうかは、わからない。
それでも、答えは出ている。
ラストの死と生の対比。
観終わったあとの余韻は、穏やかで、長い。
市井に生きる人々の弱さ、愚かさ、情け無さ。
『女ってやつは、どうして、こう…』ぼやくような描写も楽しい。
" 監督 " の主義主張は声高に響いていない。その目線、視点が語っている。
不朽の名作。名画。まさに。
そういえば、モノクロだった。
観終わったあと、思い返す場面にはやっぱり色があって、匂いがある。
脇役、従者ヨンスもまた魅力的。
現実生き抜く知恵を持った、ふてぶてしさ、逞しさ。