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ぐるぐる回る 風の時代がやってくる

 その1 『真・デビルマン』

 

十歳のとき、『デビルマン』と出会った。

青くて不気味なその怪人風のヒーローには、愛と正義の味方とは思えない妖しい魅力があった。

当時はひと昔前のアニメを夕方に再放送していて、僕らはそのレトロな感覚を面白がっていた。少年ジャンプが最盛期を迎えようとしている頃だ。

 

ある日、本屋で『小説』の『デビルマン』と出会った。

緑の背表紙のソノラマ文庫

アニメとは一味違うその表紙の絵に惹かれた。

真・デビルマン (3) (ソノラマ文庫 (197))

 

さえない高校生、明のもとにやってくる親友・飛鳥了。突然の再会。

『悪魔の侵攻が始まっている』

『人類を守るために俺と一緒に命を賭けてくれないか』

おまえの頼みなら、とすべてを捨てる覚悟を決める明。

 

 

この時点で、もう、アニメ版とは趣きが違う。

 

今回の敵はどんな化け物なんだろう?来週はどんな危機が訪れるのだろう?

というワクワク感は、『次』があるのを前提としている。最終回までそのフォーマットは変わらない。

だが、アニメ版ではない、本家の漫画をベースにした『小説版』は、初っ端から悲壮感を漂わせ、ただならぬ覚悟を滲ませていた。

 

『次』はないのだ

 

一度負ければ、死ぬだけ。死んでしまえば、人類もまた滅びる。それだけの覚悟を持って、明は悪魔の力を手に入れる。

 

対する敵にも言い分がある。この星はわれらの物である。眠っている間に我が物顔でのさばりはじめた邪魔者は消す。当然の理だろう?

 

こども心に、『これは、何か、違う…』と感じていた。

 

悪い奴らは徹底的に悪く、倒されなければならない。

『わたしたち』の中にそんなものはない。あってはならない。

いじめはいけない。差別はいけない。

みんな仲良く。友情が一番大事。

お父さんとお母さんにありがとう。

笑顔で無邪気で。

正しく、清く、美しく。

 

周りの大人たちが嘘くさく感じられて、話せる友達もおらず、うまく言葉に言い表すこともできなかった幼い頃。

思春期の入り口に立った人見知りの少年にとって、小説『真・デビルマン』第三巻の衝撃は決定的だった。

 

 

目の前で世界が切り裂かれた。

 

これが本当の世界なんだと思った。

 

 

後に漫画版を読み、展開がわかっていながらも戦慄したが、十歳の少年が活字から得た体感。

それはまさに生涯初の感動だった。

 

居場所がないこと、話せる相手がいないこと、孤独であること、なじめない感覚を、そのとき、はじめて肯定してもらえた。

その凄惨な『現実』の描写に勇気をもらったのだ。

 

   

 

一回観て、ぽい。

一回聴いて、ぽい。

読み流して、ぽい。

としたくない、誰かに語りたくなるような、素晴らしい作品と出会えますように。

新しい世界が開けますように。

 

 

お役に立てたら、嬉しい。

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