『 “生命の営み” と書いて、“ アート ”と読む! 蒼天航路 』
圧倒的な画力。まさに『画』の『力』。
滾々と噴き出すエネルギーに満ちみちている。
三国志の世界を、曹操の視点から描いたこの作品を、まだ未見の方は、言うなれば、とっておきの特効薬をまだ服用していない幸運な心身をお持ちの方なのであろう。
歴史には興味ないな。
中国の古典だっけ。
男の子は好きそう。
そんなイメージでまだ手にとっていないのだとすれば、
読むだけで力が湧いてくるような作品に出会いたいとか、
みなぎる情熱のままに生きてみたいと願っているとか、
本当に血の通った人物たちの、地に足の着いたロマンに震えたいとか、
そんな渇望をひそかに抱いているとしたら、
もう。
絶対におすすめの作品である。
今日のはてなブログの [お題] は、“ふつうに良かった映画” である。
本作は、言うなれば、“ 本気で良すぎる漫画 ” である。
僕は少女マンガから青年コミック、シリアスからギャグからシュールから、特にジャンルにこだわって読まないし、『いいものはいい』『面白いものは面白い』、ただ、『素晴らしいもの』でありさえすれば、カテゴリーなんてどうでもいいと思っている。
食事の好き嫌いと同じで、フレンチにはフレンチの作法があるし、中華には中華の楽しい食べ方がある。知れば何でも楽しいものだ、というスタンスで、読む。そして、好き嫌いが、ない。
そして、やはり、これも食事と同じで、雑で、愛も情熱もないものには、触れたくない。
『蒼天航路』は、『緻密』で、『情熱』にあふれ、『生』の『活力』がみなぎった作品だ。
やはり中華で喩えるならば、現代風にアレンジした、『ゴージャス』で、『薬膳』の力も持ち、かつ、ここが一番重要なことだが、『もの凄く美味』なフルコース満漢全席のような作品である。
絵がもはや美味である。
どんな人物にも命が通っている。脇のちょっとした人物ですら。
背景、小道具にすら、そこに存在する命を感じる。
三国志をまったく知らない人。
というのは、歴史もの、というだけで、苦手意識、どころか意識の端にものぼらない人だろう。
だが、この漫画は、『三国志』をベースに描いているが、とても丁寧に緻密に大胆に三国志を解釈してはいるが、
全36巻を貫いているのは、『生命の営み』=『アート』の精神である。
つまりそれは、万人に向けて描かれた、時代も国境も超える『人間のたましい』、その躍動と歓喜だ。
本当の曹操という人はどんな人物だったか。
『蒼天航路』が描いた曹操の姿は、映画『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーが、『本物のジョーカー』になってしまったように、もうそれ以外在り得ないのではないだろうか?という実在感を放っている。
国を獲る、奪う、男の世界観。
だがそれは舞台でしかない。
死を身近に感じる世界で、人間は、それぞれ、どう生きるか、己はいったい何者なのかを問われる。
そこには王も平民も奴隷もない。
境遇は違えど、“どう生きるか”という問いは誰もが等しく抱くのだから。
『蒼天航路』の主役とは、苛烈に、己が生を燃焼させんとする者たちだ。
曹操は物語の主役というよりは、主軸だ。
職業も肩書きも違う、男も女も、老いも若きも、民族や出生の違うものたちまで、『蒼天航路』は描く。
それぞれの戦いを生き抜こうとするものたちを、歓喜と躍動の圧倒的な画力で描く。
激しく生きることを選ぶ人たちに贈られた、最高級の作品である。