SOUL EAT!!!

歓び跳ねる、踊り狂う、炸裂する虹、そのかけらを一灯

過去に決着を。 " 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 " を読むことによって癒される傷。

 

ばか売れしていた。

村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

 

文庫になっていたので、手に取った。

あれだけヒットしたのは、" 1Q84 " の余波。

内容的には、大ホームランかっ飛ばしたあとの調整もかねて、少し気を抜いて書き下ろしたもの。

とばかり思っていた。

 

間違っていた。

まごうかたなき傑作だった。

長く読み継がれるであろう傑作であった。

 

物語は、こうだ。

学生時代、彼、多崎つくるには、仲の良い友人たちがいた。

「仲の良い」ではすまぬ、どこかで深く結びついた友人たちがいた。

彼らには特徴があった。

皆、名前に色がつくこと。赤、青、白、黒。

多崎にだけは、ない。

分かちがたく結びついた絆、「何かの縁」と片付けるには密接にすぎたそのサークル。

ある日、多崎は告げられる。

「もうおまえと会うことはない」

それが4人の総意だと告げられる。

 

傷を抱えたまま、孤独に囚われたまま、内界で激しく戦いながら、彼は大人になる。

生き延びる。

ごくまっとうな「大人」になった彼は、ひとりの女と出会う。

魅力的な、美しい、特別な女性と出会う。

親密さが増すにつれ、彼女は気付く。多崎の背負う何か、抱えた何か。

誰にも話したことのなかった過去を、多崎は話す。もう終わったこと、過ぎたことのひとつと話す。

彼女は言う。

「あなたは、彼らに会わなくてはいけない」

 

なぜ、多崎はグループから突然切られなければならなかったのか。

いま、彼らはどうしているのか。

何が、あのときの自分たちを引き合わせていたのか。

あれは、いったい、なんだったのか。

 

彼はほんとうのことを知るために、ふたたび、「そこ」へと向かう――

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

 

読んでいる間、自分は多崎になっている。

多崎の傷、痛みを感じながら、ともに旅をする。

生まれ変わりたいと願う多崎を感じる。生まれ変わらざるを得ないおそろしさも感じる。

それでも事実を受け止めようと、ふたたび傷がぱっくり開く可能性だってあることを覚悟して、過去と向き合う。

知りたくない、知らなくたっていい真実と向き合う。

過去は清算される、しかしそれは感動的なフィナーレではなく、新たな試練を呼び寄せる始まりとなる。

終わることによって、生まれ変わった自分。

生まれてしまった新たな自分が願うこと。

 

夢から醒めるように、本を閉じる。

 

自分は、無論、多崎ではない。

しかし、多崎としてその間、現実を生きた。

 

胡蝶の夢感覚。